動機と改善効果

Q1:文書管理の改善導入のキッカケに,何が使えますか。

限られた財源で,年々増加する行政需要を満たしていかなければならない自治体にとって,新規事業として文書管理の改善導入を決定することは,容易なことではありませんし,直面する文書の私物化と不要文書のはん濫を解決するという理由だけで,その導入を認めてもらうことは至難の技です。

では,先進自治体では,どのようなキッカケを活用して,文書管理の改善導入の決定まで持ち込んでいるのでしょうか。実際に文書管理の改善導入を行った先進自治体では,次のようなことをキッカケに,新しい文書管理方法として「AKF」を導入しました。

1. 行財政改革

近年急増しているのが,行財政改革のために文書管理の改善導入を行うケースです。

詳しくは,別の機会に解説しますが,例えば,2008年度にADMiC・駿河台大学・行政文書管理学会の全自治体を対象にした調査(回答自治体数956団体)によれば,自治体の職員が1日に執務室にある担当業務の文書を検索する件数が5件で,これに要する時間が10分11秒でした。「AKF」で自己検索すると5秒から10秒程度ですが,安全をみて15秒としても,1日当たりの無駄な検索時間は約9分(10分11秒-1分15秒)/職員となり,それに法定労働時間相当の243日を掛けると,年間約36時間27分/職員の労働時間を節約することができます。これに自治体職員の平均時給3,091円(平成19年4月1日付総務省自治行政局の地方公務員給与実態調査結果を基に,平均年間給与に期末手当平均年額を加えて,法定労働時間1944時間で割って算出)を乗ずると,年間一人当たり約112,667円の人件費相当額が節約できます。自治体の職員数が1,000人とすると,1億1,266万円/年間になります。これから導入・維持管理に係る経費を差し引いた金額が行政改革効果として計上できます。

2. 新庁舎建設

新庁舎建設や庁舎移転もキッカケになります。事務室が移転する際には,文書の整理は必然的に行われますし,新しい庁舎には新しい保管容器が用意されます。ハードが変わるのですから,この際,文書管理の仕組みを見直しましょう,ということもできます。

3. 情報公開制度・個人情報保護制度

既に情報公開条例・個人情報保護条例をほとんどの自治体が制定し施行しています。しかし,既に述べたように,そのほとんどの自治体で,両条例の求める行政文書の適正な管理を十分に行っていないのが実情ではないでしょうか。

情報公開条例では,「文書目録の作成」が求められています。この目録では,存在する文書が漏れなく検索できなければなりません。こうした条件を満たす文書目録を作るためにも文書管理方法を改善することが求められます。

また,個人情報保護条例では,「個人情報の安全確保」を求めていますが,依然として,担当者が文書を自己手元保管しており,大量の文書が施錠もできない場所に置かれているのではないでしょうか。また,個人情報保護条例では,「必要な範囲を超えて個人情報を保有してはならない」としていますが,保存・廃棄のシステムが機能していないために,大量の個人情報が制限を越えて保有されているのではないでしょうか。

このような条例違反の現状は改善されなければならず,このことが旧来の文書管理方法そのものを切替えるキッカケになるはずです。

4. 公文書管理法

今後,増えると思われるキッカケが,公文書管理法との整合性確保のため,というものです。その理由は,次のとおりです。同法が自治体に本法の趣旨にのっとり,その保有する文書の適正な管理に関して必要な施策を策定し,及びこれを実施するよう努めなければならない(第34条)としているからです。また,同法は,公文書等の管理を適正かつ効果的に行うために必要な知識及び技能を習得させ,及び向上させるために必要な研修を行うものとする(第32条)と規定しています。さらに,法制化が自治体の条例化を促す一因になることもあります。こうしたことが重なって,改善のキッカケになり得ると思われます。

こうした動きは,平成22年9月より総務省主催で開催している「行政管理・評価セミナー」(公文書管理法の包括的な解説を総務省行政管理局が,ガイドライン対応実務の在り方をADMiC廣田が,分担して解説)への参加者が,例年よりも大幅に増えていることからも推察することができます。

5. 市町村合併

市町村の合併は,文書管理の改善導入の絶好の機会です。新しい組織体成立と同時に新システムに切り替えやすいからです。

合併協議の段階から,高い品質の文書管理に関する情報を収集し,先進自治体を視察することも有益です。

また,合併を構成する各自治体の文書管理方法を比較検討して,新市に最も相応しいものを選ぶこともできます。島根県のU市は,5町1村が合併してできた市ですが,新市の文書管理方法は,その6町村のうち,規模で言えば下から2番目の町が実践していた「AKF」を採用しました。とかく合併に際して大規模な自治体の方法で統一しがちですが,U市では合併協議の段階で,6町村が新市への志を高くして,良質の方法を求めた結果です。

このほかに次のようなキッカケもありました。

  1. 公文書館制度の実施に伴う受入文書のシステム化
  2. 行政の情報化推進の前提作業としての文書管理の見直し
  3. 住民自治を構築するため,行政と住民との情報共有化を構築するため

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